
こんにちは、ITチームのナカジマです。
チームではコーポレート開発エンジニアとしてアプリのシステム連携やシステム導入を通して業務効率化や自動化を行なっています。
お仕事内容(過去の記事)
トライアル背景
生成AIの進化は著しく、ITチームとして従業員にAIの利便性をより深く実感してもらいたいという思いがあり、また質問への回答を得るだけの段階から一歩進んで、AIに学習させて活用するフェーズへとステップアップしたいという思いもありました。
そこですでに社内で提供しているサービスに組み込まれているAI機能の活用を考え、中でも、特にJira Service Managementに搭載されている「Atlassian Intelligence」は、その目的に最適なツールだと考えました。ビザスクのヘルプデスク(ITや経理、法務など)には日々数件〜数十件のリクエストが寄せられているため、AIの活用によってヘルプデスク担当者やリクエストする従業員の手助けができれば効果が高そうです。
以上がトライアル実施の背景です。
補足
Jira Service Managementとは(過去の記事)
- Atlassian Intelligenceの紹介(公式)
トライアルで検証するAI機能について
Atlassian Intelligenceには多くの機能や活用方法がありますが、トライアルでは以下の利用に絞って活用方法を探ってみました
1. チケットの要約
顧客からの問い合わせやインシデント報告の中には、状況説明やこれまでの経緯が長文で書かれているケースがよくあります。AIの要約機能を使えば、長い説明文やコメントのやり取り全体を数クリックで簡潔なサマリーにまとめることができます。これにより、担当者はチケットの本質的な内容を瞬時に把握し、対応に取りかかるまでの時間を短縮できます。
2. チケットからナレッジベース記事案生成
解決済みのチケットや、繰り返される問い合わせに対応したチケットは、そのままナレッジベース記事の貴重な情報源となります。AIによってチケットの内容(説明、コメント、解決方法など)を自動で分析・要約し、ナレッジベース記事の草案を生成します。
実装について
チケット内の状況(リクエスト内容やコメント)の要約はチケットに備わっている機能で手動実行することも可能ですが、「リクエストが投稿されたらチケットに自動で要約を投稿」「チケットが担当者から担当者へエスカレーションされたら要約を投稿」のように自動で要約することも可能です

また備わっている機能よりも高度な指示をAIに出して動作させることも可能です。
自動で投稿する場合や高度な指示を行いたい場合、Atlassian上においては「スタジオ」という開発環境で機能を開発します。 スタジオでは様々な機能が提供されていますが、今回は「Rovo エージェント」と呼ばれる機能を使用して文章の要約を実現します。
スタジオによるRovoエージェント開発
スタジオではプロンプトによるAIへの「指示」や、AIに追加指示しつつ起動を行う「会話のきっかけ」、AIのデータソースを選択する「ナレッジ」、異なるアプリケーションへ連携する「アクション」、という4項目を設定することができ、それらを駆使してエージェントアプリ「Rovo」を作成します。
今回AIに行わせたい作業は共通していて、それは文章の要約になります。
しかし要約時に抑えてもらいたいポイントは微妙に異なるので、その点は各設定やプロンプトの内容で制御します。
以下はそれぞれのRovoエージェントの作成例です。
Rovoエージェントの作成例(2種類)
1. 「チケットの要約」のRovoエージェント
- 指示:チケットの内容を要約してください。要約するときは〇〇の条件で行なってください
- 会話のきっかけ:チケットの内容を要約してください
- ナレッジ:ITチームのナレッジを指定
- アクション:未設定
2. 「チケットからナレッジベース記事案生成」のRovoエージェント
- 指示:チケットの内容を要約してください。要約するときは〇〇の条件で行なってください。ナレッジとして記事に残すため△△のように整理してください
- 会話のきっかけ:チケットの内容を要約してください。ナレッジベースに記事を作成してください
- ナレッジ:指定しない
- アクション:Confluence*1に連携
Rovoエージェントの実行
作成したRovoエージェントは以下の方法で実行することができます。
今回「1. チケットの要約」はリクエスト投稿時やエスカレーション時などのステータス変化で自動実行したいので「自動実行」、 「2. ナレッジベース記事案作成」は人の目で要約内容をレビューしてから記事を作成したいので「手動実行」としました
実際の実行例
設定ができたので実際に実行してみます
1. 「チケットの要約」のRovoエージェント
他の担当者へエスカレーションしたときに、リクエスト内容やそれまでのやり取り(リクエストした人とヘルプデスク担当者のやり取り)を自動で要約してチケットに投稿します
リクエスト内容の例
リクエストした人:WinMergeというソフトを利用したいのですが、問題ないでしょうか?開発用のソフトで、ファイルの差分比較を行います
途中のやりとりの例
担当者:公式サイトやサポートページがあれば教えてください
リクエストした人:公式サイトはこちら(https://winmerge.org/?lang=ja)、サポートページのURLは分かりません
担当者:WinMergeにはいくつかのバージョンがありますが、どれを利用しますか?
リクエストした人:2.16.48.2を利用予定です
自動で要約された文章
以下は、ITSM-4197の問い合わせに関する状況のサマリです。
2. 「チケットからナレッジベース記事案生成」のRovoエージェント
リクエストが解決されたら、今度はチケットからナレッジベース記事案を生成してみます。 チケット内の「Rovo」ボタンからエージェントを呼び出すと、要約がナレッジベースに作成されます
ナレッジベースに作成された文章
概要
WinMergeは、ファイルの差分比較を行うための開発用ソフトウェアです。以下は、WinMergeの利用に関するナレッジです。
利用許可
[リクエストした人の名前]がWinMergeの利用を希望し、ITチームにより安全性が確認され、利用が許可されました。
利用予定のバージョンは2.16.48.2です。
利用目的
ファイルの差分比較を行うための開発用ソフトウェアとして利用されます。
注意事項
参考リンク
Slackでの関連スレッド
トライアルまとめ
要約はAIの得意分野でもあるので、Rovoエージェントを通して出力された結果は期待以上だと感じました。 しかし要約内容の細かい調整はなかなか難しく、希望通りの出力結果を得るのはAtlassian AIに対して試行錯誤が必要だと感じます。 ただ現状の精度でも十分実用化してみたいと思えるものです。
Rovoには「チケットが作成されたらナレッジベースからリクエストに類似するナレッジを自動で検索する」機能もありますので、
- 今回開発した機能を活用してまずはナレッジを充実させる
- その後は担当者に類似するナレッジを自動で通知する
- 更には従業員にナレッジを自動で通知して自己解決してもらう
といったステップで担当者や従業員の負担を減らしていくことができるかもしれません。 トライアル期間以降Rovoを使用するためには上位プランへの引き上げなどが必要となりますので、そのような将来に向けて計画を立てていきたいと思います。
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*1:Atlassian製のナレッジベースサービス